「……瑞希が帰国したって……」


その言葉に、キスの余韻でボンヤリとした頭が動き出す。

千歳さんの胸にキツく抱き締められていて、彼の表情は読めない。


「……瑞希に会った?」

「……会って……ないよ」


ドッドッドッと緊張で鼓動が早くなる。

身体から熱がひく。


……言えなかった。


昨日、瑞希くんと顔を合わせたのは私じゃない。

『葛花穂』の私だ。


「……瑞希の帰国、知ってた?」


問いただすような言い方に。

力なく首を振る。


「……舞花に聞いて……」


それを言うことが精一杯。

あれだけ、もう嘘はつきたくないって思ったのに。

もう嘘はつかないって決めたのに。

……また嘘を重ねる私は本当に最低だ。


瑞希くんに気持ちを打ち明けられたことはもっと言えない。

何でも話して、と言われたばかりなのに。

言われたそばから彼を裏切る私には千歳さんの傍にいる資格はないのかもしれない。


「……もし瑞希に会ったらその時は教えて」


余計な詮索もせず、ただそれだけを言って千歳さんは私を抱く腕に力をこめた。


なす術もなく、私は黙って頷いた。