「……な、何で……!」



言葉が千歳さんの唇に吸い込まれる。

私の唇を貪るように何度も口付けられる。

近すぎる距離にある、千歳さんの端正な顔立ちが息苦しさで滲む。


「……キス……」


唇を解放してくれた千歳さんが真っ赤な顔の私を色気を纏った瞳で見つめる。


「……え?」

「……俺としかしてないって聞いて止まんなかった、ごめん」


目尻に残る私の涙を唇で掬って、フワッと千歳さんは微笑んだ。


その微笑みが見惚れるくらいに綺麗で。

もうこれ以上ないくらいに暴れている鼓動がまた大きく暴れだす。


「……穂花」


蕩けそうな甘い視線で闇色の瞳を潤ませて。


「……何……?」

「好きだ」


当たり前のように千歳さんは口にした。


ドクン……ッ。



その圧倒的な衝撃は。

壊れかけた私の鼓動を更に狂わせて。

ジン、と頭が痺れて。

呼吸と思考を停止させた。



「……誰にも、たとえ瑞希にも穂花は渡さない」


強い言葉とは裏腹に、触れる指先は何処までも優しい。


「……でも私達、お互いのこと殆ど知らないんだよ……?
しかも私はあの日と外見も違う、なのに……」

「何で好き、って言い切れるかって?」


真摯な瞳が私を真っ直ぐに見据える。

まさに聞きたかったことを千歳さんはそのまま口にした。


「あの日、屋上庭園で出会った時に感じた直感と想いを信じてるから。
ずっと探してた。
……見つけられないまま海外に行って、もう見つからないかもって思うことだってあった。
……でも俺は見つけた。
しかも俺が探していた人は小さい頃から知っていた穂花だった。
……こんな偶然を……運命って言うんじゃないのか?」


照れることも茶化すこともなく。

穏やかな眼差しで彼は話す。

その態度から千歳さんの想いのゆるぎなさを感じた。



「知らないことはこれから知っていけばいい。
ただ、それだけだ」


そう言って、千歳さんはまるで壊れものに触れるかのように私の頬を大きな両手でそっと包んで、額に優しくキスをした。