口を閉じてしまった葵くんは、悔しそうに眉を寄せていた。



ねぇ、葵くん?




……もしかして、私のことをまた困らせようとしてる?




だからさっきみたいなことを言ったの?





何も言わない葵くんに、また少し泣きそうになった。


だから俯いて、上履きのつま先をジッと見つめて。






「……彼女のフリをしてた時はね、」






声が震えないように、お腹に力を込める。






「葵くんが、ドキドキさせるようなことばっかりしてくるから、本当に困ったんだよ」






『田中さんの困った顔、なんかそそられるよね』


もう、本当に、タチが悪いね葵くんは。






「でも、もう私は葵くんの偽物の彼女でもないし、」


「田中さ、」


「"そういうこと"言うのも……やめよう?」