食事が終わって2階の自分の部屋に入ると、わたしが東京から送った段ボール箱が壁沿いに積まれていた。
わたしはそれを眺めながら、ため息をこぼさずにはいられなかった。

そのひとつひとつを開封するのは気が滅入りそうだなと思ったからだ。


けれど、その段ボール箱の群れの隣にある本棚が視界に入り、その見慣れた風景に、心が捕まってしまう。


何冊ものスケッチブックやクロッキー帳が、わたしが部屋を出たままの状態で並べられていたのだ。


まるで引き寄せられるように、わたしはその中の一冊に触れていた。

表紙を撫でて、はらりと捲る。

そこには、何気ない日常のスケッチが綴られていたかと思えば、人物のデッサンだったり、どこか外国っぽい街並みの風景だったり、さまざまな絵が四角い世界に残されていた。

そのひとつずつを覚えているわけではないけれど、実家にいた頃のわたしはとにかく描くことが好きで、一分でも手が空くと鉛筆を握っていた記憶がある。

ここにあるのは、そんな私の過去の忘れ物達だ。



・・・・・本当に、描くのが大好きだったのに・・・・・・



だった・・と、過去形にしてしまうのは、わたしの今の本心なのだろうか。

自分のことなのに、自分では分からない。


描くことが大好きだったわたしは、今、ここにはいないのだろうか。


スケッチブックをなぞりながら自分の気持ちを探っても、明快な答えは出てこなかった。



だって―――――――――――――――


『お前本当に描くのが好きなんだな。でもセンスあるよ。うちに来たら?』


もう、二度とは会うことのない人のセリフが、胸の傷痕をいまだに抉ろうとするのだから・・・・・・・