あれ以来、わたしは神楽さんからのメールも電話も無視し続けていた。


神楽さんは、はじめは不審がる様子はなかったけれど、一週間を過ぎると、あきらかにメールの文面が変わってきた。


“何かあった?”
“大丈夫?”
“心配してます”

神楽さんの心配そうな表情が、すぐに浮かんでくる。

わたしは、神楽さんにこんなに心配かけても、それでも、電話に出ることも、メールを返すこともできなかったのだ。



そして、あの日からできなくなったことが、もうひとつ・・・・


わたしは、あの日から一度も、スケッチ帳を開けなかった。


ほとんど日課のようになっていたので、自然と鉛筆を握ることはあったのだが、スケッチ帳は、どうしても開けなかった。

だけど、 ”描きたい” という思いがなくなったわけではない。
先輩のことで色々あったときは、描くのが嫌になってしまったけど、今回はそんな感じではなくて。
ただ、描こうと思っても、スケッチ帳を開くことを躊躇ってしまうのだ。


なぜだろう・・・・

この中に、神楽さんの車とかエンブレムとか、彼を思い出させるスケッチが入ってるからだろうか。

他のノートや紙には、普通に描けるのに・・・・


わたしは自分の部屋、床に座り、ベッドにもたれ掛かって、鉛筆をくるくる回し弄んでいた。
目の前のテーブルには、スケッチ帳。


・・・・もう、神楽さんのことは考えない方がいい。


分かってるのに、気が付くと、このスケッチ帳を眺めているわたしがいた。


神楽さんのおかげで ”描く” ことを取り戻せたのに、その神楽さんが、わたしを悩ませている。


たった二度しか会っていない人なのに、こんなにも、わたしの中に入り込んでいたんだと、驚いてしまう。


だけど・・・・・


・・・・もう、傷付きたくない。


なのに、神楽さんのことばかりを考えてしまう。

だから、スケッチ帳を開かないのは、もしかしたら、わたしなりの自己防衛なのかもしれない。


神楽さんに関するものを目にして、彼への想いがますます濃くなるのを止める為の・・・・