結局、あの旧千円札のことを確かめられないまま、神楽さんとの約束の日を迎えた。

あのぬいぐるみ以来、店で物がなくなることはなく、確かめようがなかった・・・というのが本当のところだけど。

でも、いくら頭をひねったところで、わたしの仮説を立証できそうにはなかった。

例えまた同じことが起こったとしても、”あり得ない””信じられない” で終わってしまいそうな気がしたからだ。

今でも思う。

あれは、現実に起こったことだったのだろうか?――――――と。

だけどそんなとき、あの旧千円札が、わたしにリアルを突き付けてくるのだった。

あの千円札を拾ったときに感じたぬくもりを、はっきりと覚えているから。
誰かの手を離れて間もないような、体温を孕んでいるような感触が、わたしを混乱させているのだ。


そんな風に、ここ一週間ほどは、わたしの心の片隅には、あの仮説が居座り続けていたのだった。


けれど今日は、神楽さんとの待ち合わせ。

電車で大阪に向かう途中も、何度かはあの旧札を思い出したけれど、それよりも、この後に再会する神楽さんの方がはるかに心を大きく占めていた。


パーティーは梅田のカフェで11時から始まり、だいたい2時間の予定だと聞いたので、大阪駅で1時半に待ち合わせの約束をした。

神楽さんは大学卒業以来大阪には来ていないみたいだし、わたしも、新しくなった駅ビルで待ち合わせをしたことがあまりなかったので、ネットで初心者にも分かりやすい待ち合わせスポットを検索して、中央改札南口の水時計前にした。

改札から離れていることもあり、そこまで混雑していないというのが決め手だった。