隣からダイレクトに届いた声に、ハッとした。

車はまた走りはじめていたけれど、神楽さんは運転しながら助手席に視線を流してくる。

けれどわたしは何も答えられず、そしてそんなわたしに、神楽さんはクスッと笑って、また正面を向いた。

「お節介は承知です。普通は、今日会ったばかりの人間にそう易々と自分の話なんかできませんよね。でも・・・」

車は静かに曲がり、首都高に入っていった。

「俺、車の運転が好きなんですよね。だからドライブに付き合ってもらいたいんですけど、その間、話してもいいかなと思ったら、話してくださいね。でも・・・・はやく話してくれないと、もしかしたらいつまでもドライブが終わらないかもしれませんけど」

いたずらっぽく笑いながら言ってきた神楽さんは、カーナビを操作して、小さなボリュームで流れていた音楽をオフにした。

その発言も、行為も、紳士的ではあったけれど、こうと決めたら譲らないような、頑固そうな気配も感じた。

もちろん、そんな強引な誘い、無視しようと思えばそれで済むことだ。
神楽さんだって、冗談でああ言っただけで、時間がくればドライブを終えてわたしを駅まで送り届けてくれるのだろう。

でも、わたしは、さっき先輩と会ってしまったことでよみがえってきた痛みがヒリヒリしていて、このまま、何もなかったかのように振る舞うのは、ちょっとしんどいなと思いはじめていた。

しかも、車なんてほとんど密室で。
高速に乗ったのだから、あと数十分、下手したら一時間ほどわたしと神楽さん二人きりの空間で、わたしは思い出したばかりの痛みを無視して、穏やかでいなければならないなんて・・・・


・・・・べつに隠すほどのことでもないか。
神楽さんとも、この後もう会うこともないんだろうし・・・・


神楽さんと会うのはこれっきりだと思ったわたしは、今まで誰にも話せなかったことを打ち明けても害はないだろうと、わりと短い時間で気持ちが切り替わったのだった。