「いえ、わたしの方こそ、あんな場面をお見せしてしまって・・・・」

先輩の前から連れ出してくれたのは、神楽さんだ。

あのままあそこにいたら、わたしはどこまでも過去の傷みから抜け出せなかったはずで。

・・・・もしかしたらこのドライブも、気分転換のつもりで誘ってくれたのかもしれない。

可愛らしい顔立ちをしていて若く見えるけれど、やっぱり教師という仕事柄、人を観察する力があるのだろうか。
・・・いや、わたしのあの態度では誰にでもまるわかりだったかな。

でも、あれは大人げなかったかも・・・・そんな悔いが生じてきたと同時に、

「大丈夫ですか?」

運転席から、静かに、そう訊かれた。

控えめな問いかけは、神楽さんの優しい雰囲気そのものだった。

「・・・・大丈夫です。すみません、ご心配おかけして」

ニコッと、笑い顔をこしらえて答えた。

けれどその答えに満足しなかったのか、神楽さんは信号で停車すると、わたしの方を見つめてきた。

「本当に?」

眉が、心配そうに形を変えた。

その大きな目で捉えられて、わたしのぎこちない作り笑いは綻びが出はじめる。

「・・・・大丈夫です」

さっきと同じように返したつもりだったけど、そう言った後、わたしは神楽さんから目を逸らしてしまった。

「本当に大丈夫なんです」

目を合わせないまま、もう一度告げた。

視線を移した先には、車道の左右を街路樹が囲んでいる風景が続いていて、もう少ししたらここもイルミネーションで飾られる季節になるのだろう。

もう、わたしがその風物詩を味わうことはないのだろうけど・・・・

そんなことを思って、またちょっと、苦くなった。


去年、あのカフェを飛び出して、この通りのイルミネーションを心が張り裂けそうな思いで眺めたのだ。

見上げた先、涙で輪郭が曖昧に溶けた光の粒達を、いまだに覚えている。

あの涙が悲し涙だったのか、悔し涙だったのか、今となっては分からない。

でも―――――――――


「全然大丈夫そうな顔じゃないんだけど」