「ここで待ってて」

神楽さんにそう言われて待っていると、間もなくして、一台の黒い車がこちらに向かってきた。

わたしでも知っている有名な外国車だ。
セダンタイプではなくて、なんていうのかは分からないけれど、ちょっと大きめで、アウトドアにも街乗りにも適しているような、おしゃれな車種・・とでも言えばいいのだろうか。

その運転席に、神楽さんが乗っていた。
外国車だから左ハンドルかと思いきや、神楽さんの車は右ハンドルだった。

助手席の窓が下がり、

「乗って」

シートベルトをした神楽さんが体をひねってわたしを見上げた。

わたしはピカピカの高級車に気後れを覚えつつ、恐々とドアを開き、「お邪魔します・・・」ぽつりと言ってからシートにおさまった。

車内は、まるで納車したばかりの新車のようにきれいで、ムスク系の香りがほのかに漂っていた。

待ち合わせ場所ではじめて見かけたときに感じたおしゃれな印象は、ここでも健在だ。


車のことはよく知らないけど、素人目でも、内装が高級な感じがする。

・・・・私立学校の教師って、そんなにお給料いいの?

率直な疑問を抱いていると、車はなめらかに走り出した。
ステアリングを軽く回しながら、神楽さんが話しかけてくる。

「強引に誘ったみたいで、すみません」

小さく謝った神楽さん。

わたしは反射的に首を横に振っていた。