カフェを出ても、しばらくは神楽さんに腕を引かれたままだった。
週末の午後、それなりに混雑している東京駅を、”手をつなぐ” のではなく ”腕を引っ張られる” という格好は、ちょっと人目をひいていた。

すれ違う人の視線を感じたわたしは、「あのっ」と、神楽さんの後ろ頭に声をかけた。

でも神楽さんは足を止めずに、顔だけをくるりと回すと、

「まだお時間ありますよね?」

と訊いてきたのだ。

「え?あ、はい、まあ・・・」

有無を言わせない強さで訊いてきたくせに、わたしがぼやけた返事をすると、神楽さんは「よかった」と微笑んだ。

「じゃあ、ちょっとドライブでもしませんか?」

「え、ドライブ?・・・て、わっ・・・」

問い返したわたしの腕を、神楽さんはまたぐいっと引っ張る。

「八重洲のパーキングに停めたので、ちょっと歩きますね」

「え・・・八重洲?」

繰り返し尋ねるも、神楽さんは何も言わずに私を目的地まで連れて行く。

そんなに高いヒールを履いているわけではないけれど、片腕を引かれたまま歩くのは頼りない。


けれど、触れたところから神楽さんの体温が伝わってくるようで、そのぬくもりが、さっきのカフェでの出来事を柔らかく癒やしてくれる気がして、

わたしは、素直に腕を引かれていたのだった・・・・