神楽さんが奈良まで来てくれて、手紙のことを知り、気持ちを打ち明けてから、わたし達の関係は大きく変わっていた。
まず、恋人として付き合いがはじまって、電話やメッセージ交換はほぼ毎日。
東京と大阪の遠距離なので会えるのは月に2、3度だったのだけど、今年の2月、思いがけない展開になったのだ。
『うちの高等部で美術教師を探してるんだけど、美里を推薦してもいい?』
平日のお昼過ぎ、いつもなら絶対にかかってこない電話に慌てたわたしは、
まったく予想してなかった誘いに、暫し言葉を失ったのだった。
そして、はじめは遠慮しようと思っていたけれど、母からの強烈なプッシュにより、わたしはこの春から高校教師としてリスタートしたのである。
再びの東京住まい。
もちろん、以前暮らしていた場所とは全然違うのだけど、わたしは、ひそかに ”帰ってきた” 感を噛みしめていた。
そして同時に、初心を思い返したのだ。
はじめて東京に来たときのことを。
18歳のわたしは、奈良から東京の大学に進学して、
もっと描きたい
絵の勉強をしたい
そんな気持ちに期待を高めていたはずで。
そのことを思い出して、わたしは、これからはじまる教師という仕事に、改めて向き合うことにしたのだった。