ふいに、また強い風が通っていく。
わたしは髪を乱されて意識をそちらに逸らしてしまったけれど、
その隙を狙ったように、神楽さんが一歩、わたしに踏み寄った。
「――――えっ?あ・・・」
あっという間に、わたしの体は神楽さんの両腕に優しく閉じ込められていた。
「芦原さん・・・」
耳のすぐそばから紡がれる声は、とても甘い。
神楽さんに抱きしめられてると認識したとたん、わたしの心臓はどうしようもなく速まっていって、神楽さんにまでその音が漏れてしまいそうだ。
ここは観光客もいる公園なのに。
わたしの実家はすぐ近くにあって、知ってる人が通るかもしれない場所なのに。
なのに、わたしには、神楽さんの抱擁を手離すことができなかった。
「好きだよ、芦原さん」
そう告げて、さらに抱きしめてくる神楽さん。
優しく強引な腕の中、わたしは、背中で、カサ、という音を聞いた。
それは、わたしの手紙と神楽さんの千円札が擦れた音―――――――
本当なら出会うことのなかった二つが、10年以上の時間を経て、やっと触れあえたんだ。
まるで、わたしと神楽さんのように・・・・
わたしは、なんだかもうずっと前から神楽さんを知っているような気分だった。
知り合ってからの時間とか、会った回数とか、そんなものがどうでもよくなるくらい、
神楽さんとは、出会うべくして出会ったんだ。
きっと、そのために、あの悔しかった想いや、悲しかった出来事があったんだ。
それらを乗り越えて、”今” があるのだから。
辛かったことも、たぶん、神楽さんと出会うためには必要なことだった。
全部が、未来の ”今” につながってるんだ。
「・・・神楽さん」
わたしは、そっと神楽さんに手をまわした。
腰辺りに触れると、ビクッと、神楽さんの振動を感じた。
カサカサ、と、わたしの背中からも小さな振動が伝わって、それが合図のように、わたしは自分の気持ちを神楽さんに打ち明けたのだった。
「わたしも、神楽さんが好きです―――――――――――――」