わたしの話を聞いた神楽さんは、吃驚をさらに大きくさせた。

「じゃあ、この千円札は、芦原さんの手紙とは逆に、未来に行った―――――――ということ?」

瞬きも忘れて凝視してくる神楽さん。
けれど、それは束の間だけで、あとはなぜだかとても嬉しそうに笑ってみせた。


「そっか・・・。・・・じゃあ、俺と芦原さんが出会ったのは、奇跡だったんだ」

すごく、すごく嬉しそうな神楽さん。

見てるこちら側までもが心満たされるような、上質な笑顔だ。

「奇跡・・・・ですよね。いくつもの時を越えて、お互いの手元にあるだなんて」

「うん、そうだよ。ほんの少しでも時間がずれていたら、芦原さんの手紙も、俺の千円札も、きっと別の誰かが拾っていた・・・・そっか、小学生の俺と、今の芦原さんが繋がってたんだ。あのとき、俺がお金を落としたあの瞬間、芦原さんと繋がってたんだ・・・・」

神楽さんは噛みしめるように言うと、また手紙を取り出して、千円札と重ねて持った。


「・・・・俺が落とした千円を、芦原さんが拾っていたなんて」

手紙と千円札を見つめる神楽さん。

ひとつ、ゆっくりと息を吸ったあと、


「すごい・・・・嬉しい」

ごく小さな声で、呟いた。

けれど、言葉通り嬉しそうな顔なのに、目は泣きそうなほどに細められていて、わたしの胸はキュッと締まってしまう。

さっき神楽さんに『好き』と言われたとき、わたしも泣き出しそうな顔をしていたみたいだけど、それと同じだろうか。

まるでそのことが、わたしと神楽さん、二人が同じ気持ちを共有している証のようで、わたしは、愛しさがあとからあとから湧いてくるのを止められなかった。


そしてその想いは、わたしを、神楽さんに ”触れたい” と思わせた。
神楽さんを、抱きしめたくなったのだ。
無性に。

けれど、さすがに気持ちを伝えてない今は、まだ手をのばすのは憚られた。


仕方ないので、わたしは、もう誤魔化しようのない想いは受け入れて、その想いを込めたまま、神楽さんを見つめるだけだった。