小学生の財布紛失事件からしばらく経った日の朝、わたしは店を開ける準備をしていた。
あの日以来、毎日男の子の落とした財布を探しているけれど、一向にそれは見つからなかった。

こんな狭い店を隅から隅まで探しても見つけられないなんて、もしかしたらもう他の誰かに拾われたのかもしれない。
いや、それ以前に財布を落としたのは男の子の間違いなんじゃ・・・・

そんな考えが過りかけたとき、あの男の子の顔を思い出した。

・・・・さすがにそれはないか。

あの子の焦った様子は、嘘を吐いていたとは思えないもの。


わたしは表のシャッターを上げ、何度も探した台の下を、掃除も兼ねてまた覗きこんだ。


「・・・・やっぱりないよね。ここはもう何回も見てるもんね・・・あれ?」

膝をついて台の下に潜り込むようにして見回していると、奥の隅の方に、昨日まではなかったはずの、黒っぽい、財布くらいの大きさの物があることに気が付いた。

「あんなの、あったっけ・・・・?」

それに手を伸ばすも、ぎりぎりのところで届かず、わたしは一旦立ち上がって、黒い物があった辺りの台を動かした。

すると、台の下には財布ではなく、黒い手帳のようなものが落ちていたのだ。

「手帳・・・?」

わたしはそれを拾いあげた。
書店や文具店でよく見かける、小振りの、黒くてシンプルな手帳だ。

他人の手帳を勝手に覗くのはマナー違反だけど、持ち主を知るためにはやむを得ない。
わたしは、慎重に表紙を捲った。

マンスリーのページにはスケジュールがおおまかに書き込まれていて、その文字には見覚えがあるような、ないような感じがする。

わたしはマンスリーをとばして、ウィークリーのページを開いた。
そしてそこで手が止まった。


思いがけず、自分の名前が書かれていたからだ。