陽平が部屋のドアに向かって歩き始めた。


私も急いで陽平の後ろを追い掛ける。



「別に構えなくて大丈夫だから。」


「でもフタバ食品の社長…………。」


「俺の親父ってだけ。ただの親父。」


「あっ、うん。なんか陽平と住む世界が釣り合ってない気がしてくる。」


「そんなのは関係ない。俺はオレ。親父もただの親父。」


「あっ、うん。」


「行くよ。」



陽平の手が繋がれる。


緊張から自然と陽平の手を握り返していた。


その手を更に強く握ってくれる陽平に緊張も解けていく。



ただの親父…………。


陽平の言葉を繰り返しながら、大きな扉を開けて入って行く陽平に続く。


視線を感じるが、陽平に誘導されてソファに腰掛ける。


前には奥様と旦那様である……ただの親父が座って私を見ていた。



「お邪魔しております。片桐莉乃です。」


「いらっしゃい。陽平の彼女と聞いてるよ。ゆっくりと寛いで行ってくださいね。」