恋から遠ざかっていた。


裏切られた記憶が私を臆病にしていた。


ずっと一緒に過ごせるパートナーが現れるなんて思いもよらなかった。



「莉乃、いってくる。」


「うん、いってらっしゃい。」



陽平が先に電車から降りていく。


彼の後ろ姿を目で追い掛ける。


一度振り返る姿が目に映る。


いつもの彼だ。


私も少し先にある駅で降りて会社へ向かう。



「おはよう、片桐さん。」


「おはよ、池田さん。」



これもいつもの事だ。



「昨日、山中って遅かった?」


「あー、私よりも遅かったみたい。」


「ふ〜ん、そうなんだ。」



ちらりととなりを歩く池田さんを見る。


目と目が合う。



「今、山中は忙しいから、浮気してないと思うけど?」


「はっ?」


「それを確認したいのでしょ?」


「…………ほら、山中って会社では人気あるし。」


「池田さんも心配とかするんだ。」


「…………ほら、私も27だし。」


「私は30だけど?3月には31になるし。」