「園田さん。今晩どうですか？」

　何度か誘われたことのある社内の恵美。
　お互いに割り切った関係でいられる楽な間柄だ。

「いや。ごめんね。
　今は落としたい人がいるから。」

　可愛らしい巻き髪を揺らし、わざとらしく手を口に当てて驚いた表情をする。
　作ると言った方が正しいかもしれない。

「園田さんが珍しいですね。
　園田さんなら落とさなくても言い寄られるでしょ？」

「まぁ。そうかもしれないけどさ。」

　これが世の中の正しい反応なんだけどなぁ。

「その人に飽きたらまた遊んでくださいね。」

　ウィンクして去っていく恵美を感慨深く見送った。
　素の綾を見ているせいか、わざとらしい作りモノの可愛さが心に響かなかった。

　浮かんだ考えに首を振って落として鼻で笑ってやる為だ。と、自分の思いを上書きした。


「笹島さん。前に聞いた寿退社の件は…。」

　ひそひそ話が聞こえてしまって、思わず物陰に隠れた。
　部長とそれに綾だ。

「その件は、待っていただけますか？」

「そうか。考え直してくれたか。
　結婚しても続けてくれよ。
　あと、早めにみんなに知らせたいから式の日取りが決まったら教えてくれたまえ。」

　そこまで話が進んでいたのだ。
　部長は口が固いけど、いつまで噂が広まらずに済むのか……。

　結婚が取りやめになったとは言わない綾にまだ太郎さんへの未練があるのかと心が疼いた。