朝、起きると目の前で綾が笑っていた。

「びっくりしちゃった。
 家政婦さんとバッタリ会っちゃったわよ。」

「あぁ。休みの日はいつも起きないうちに済ませてくれて。
 俺、会ったりするの面倒だから、そうしてって。
 イテテ……。ひどい頭痛だな。」

「ふふっ。お酒弱いのね。
 家政婦さんはそれでなのね。
 私に会っちゃってすごく慌ててたから。
 それに………。」

「それに?」

 言葉を詰まらせた綾が考えるように口先を尖らせた。
 知らない顔ばかりだ。
 その上、嫌でも唇に目がいった。

 柔らかそうで艶めいていて……。

「守秘義務があるわよね?彼女には。
 そう思うと………。」

 守秘義務と言うほど家政婦が俺のことを知るわけがないのだが………。

「思わせぶりなことを言われると逆に家政婦を解雇しないといけなくなる。」

 ハハッと乾いた笑いをした綾が感心するように言った。

「やっぱり経営者の顔してる。
 情だけじゃ動かないよね。」

 だから情が湧くほど接してない。
 嫌なんだ……情が湧くのが。

 俺の心の中を知らない綾が家政婦から聞いたことを口にした。

「お坊っちゃまはマンションに女性をお連れになったことがないのですけれどって。」

 なんだ。そんなこと……。

「普通のことでしょ?
 遊びの関係は外で済ませるよ。
 綾とは……交渉だからね。」