「で、どうしたいわけ?弱みを握って。」

「別にどうしようってわけでもないんですけどね。
 ただ………。」

「ただ?」

 スタイルがいい笹島先輩は背が高くスラッとしている。
 細い割には胸もあると周りの男性社員が噂するくらいに確かにありそうだ。

 何もかも持っている。
 笹島先輩にも言えることだと今日の今日まで思っていた。

「俺、誰かに本気になれたことがないんですよね。
 笹島先輩みたいに。」

「馬鹿にしてるの?」

 長い髪をかきあげて睨みつける笹島先輩に笑えてしまう。

「馬鹿にしてませんよ。尊敬してます。」

「それが馬鹿にしてるって言ってるの。」

 ダイニングのカウンターにもたれる笹島先輩は座ったらやられるとでも思っているのかもしれない。

「俺、それなりに彼女もいて、それなりに年相応の経験も済ませています。
 けれど本気になれたことがないんです。」

「私にそれを言われても困るわ。
 絶賛人間不信中よ。特に男。
 男の人なんて信じられないわ。」

「俺も男として見てくれるんですね。
 嬉しいなぁ。」

「言っておくけど助けたお礼にやらせろとか言われても無理よ。
 なんで男はそういうことしか考えてないのかしらね。」

「俺、何も言ってないじゃないですか。
 そういうの興味ないから。」

「嘘。本当に?」

「興味なくなったって言えばいいですかね。
 簡単過ぎて燃えないんですよね。」

「そ、可哀想な人ね。」

 入社当時から俺になびかない笹島先輩に興味があった。
 一矢報いるチャンスだと思った。

「ゲームをしましょう?
 落とされたら負けのゲーム。」

「崖から突き飛ばす?」

 クスクス笑う笹島先輩なら本気で突き飛ばしそうだ。

「俺が突き飛ばしましょうか?」

「冗談よ。」

 しばらく考えていた笹島先輩が口を開いた。

 こういう時にもキャーキャー喚かない落ち着いた女性……だと思っていたんだけどな。
 笹島先輩が声を荒げるなんてね。
 しかも相手は名前まで冴えない太郎さんとかいう奴に。

 その太郎さんって奴に騙されるくらいだ。
 このゲームの攻略なんて簡単そうだ。

「いいわ。その話に乗るわ。
 そうすればここに住めるってことね?」

 頷いてそうだと示す。
 物分かりがよくて助かる。

 俺も条件を確認した。

「スキンシップはOK?」

「そうね。どこまで?キスまで?
 キス………したくなんてならないわよ。」

 断言する笹島先輩をいつか鼻で笑ってやる。

「じゃキスはした方がペナルティーっていうのはどうですか?」

「そうしましょう。
 どんなペナルティーにするかは……。
 どこが好きか言うことにしましょう?」

 好きなところ……って。
 案外可愛い人なのかと訝る視線を送ると笹島先輩が付け加えた。

「無くても探すの。」

「ハハッ。ご謙遜を。」