「笹島先輩。取引先の飯田電機から苦情のお電話があって先方に謝りに行かなくちゃいけないんです。」

 泣き声で訴えるのは、笹島先輩が教えていた後輩の木村さん。
 飯田電機は王手電機メーカーで、こことの取引が途絶えると会社的にかなりのダメージだ。

「分かったわ。
 私が代わりに謝りに行くから。」

「うぅ。すみません。
 ありがとうございます。」

 頼りになる先輩だけど、ここは……。

「俺も行きます!」

「園田くん……。」

「俺も何度か飯田電機の部長とお会いして顔馴染みですし、何人かで行った方が誠意が伝わると思うので。」

「そうか。じゃ笹島さんと園田くんで行ってきてくれ。」

「課長!」

 長い物に巻かれるタイプの課長。
 私が行こうとは言い出さないことに苛立ちを感じつつ、綾を一人で行かせることも心配だ。
 先方は一癖も二癖もある。

 夕方から料亭を押さえて飯田電機の部長に来てもらえるように連絡をつけた。



 料亭に着いてすぐに頭を下げる。

「この度は我が社の……。」

「おたくが勧めてくれた材料だけど思っていた性能と違うんだよね。」

 かなりのご立腹と見受けられる部長が管を巻く。
 綾が持ってきた資料を部長の前に差し出して説明を始めた。

「それは材料の性能表を先日、出させていただいた通りに……。」

「すみません。我が社の者が不躾でして。」

 綾を押しやって、自分が前に出た。
 綾が喋らないように部長へ言葉を重ねた。

「この後にもいい店を押さえています。
 次は男だけといきませんか?」

 にやりと意地汚い笑みを浮かべた部長が豪快に肩をたたく。

「やっぱり女はいかん。女は。
 担当は男でなくちゃな。」

 気落ちしている綾が気にならなくはないけれど、ここは飯田電機をどうにかすることが先決だ。

「笹島先輩、先に帰られてください。
 ここからは男だけの時間ですので。」

「おぉ分かっておるな。園田くんは。
 さぁさぁ。もう一杯飲みなさい。」

 綾が帰った後は呼んでおいたコンパニオンを座敷呼び、ご機嫌の部長をもっと女の子が多い店へと…より夜が深まる店へとお付き合いした。