男は見るからに危険な雰囲気を纏っていた。

全身を包む黒衣に身を包み、両手に手袋を嵌めて夜道を歩くとその姿は闇に溶け込んで分からなくなるほどに。

夜な夜なこうして街へ繰り出しては酒場に行き、憂いに満ちた表情でひとり酒を飲む。

そうすると――大抵の女はちらちらと男に目をやってはその存在を気に掛ける。


――大陸の最も西に位置する大国。

男の拠点はそこにあり、そこで生まれ、そこで密かに生きていた。

友を持たず、人に紛れて生きる――そうしながら獲物を求める。


最高の傀儡を作るために。


「あの…おひとりですか?」


「ええ…あなたもおひとりですか?」


「そうなんです。隣…座っても?」


「どうぞ」


ひとりで酒を飲んでいた男の隣に座った女は肌が白く、男はその白い手をちらりと盗み見て口角を上げて危険な笑みを見せた。


「最近は物騒でいけない。ひとりで出歩くと危ないですよ」


「大勢の女性が行方不明になっている件ですか?怖いですよね…でも私は大丈夫」


その大丈夫とは一体何の自信なのか。

男は店主に同じ酒を頼むと、机に頬杖をついて金髪碧眼の女にまた笑いかけた。


「実は約束をしていたのに相手が来なくて困っていたんです。ご一緒にどうですか?」


「あなたのように素敵な方が約束を破られるなんてその人は馬鹿ね。私でよければ」


――危険な男に参る女は多い。

だからこそ男は純朴で素直な男を装うよりも、こうして少し陰のあるいつも不敵な笑みを浮かべている素の自分をさらけ出すことにしていた。


「ああ…あなたの肌、白くてきれいですね」


「ふふ、よく言われるんです。これだけが自慢なんですよ」


「…手はあなたにしよう」


「え?」


「なんでもありませんよ。さあ、飲みましょうか」


そしてその夜――女は家に戻らず、その存在を消し去られた。


その手だけを残して――