宵の朔に-主さまの気まぐれ-

凶姫は柚葉が近くにいると安心するようだった。

百鬼夜行から戻って来たばかりの朔はふたりが一緒に居るのを見た後風呂に入り、そしてまたふたりが縁側でまったりしているのを見ると、脇をすれ違う時にふっと笑って声をかけた。


「仲が良いな」


「そうよ、私たち姉妹みたいってよく言われたんだから」


「それにしては顔の作りが全く違うけど」


「いいのよ、私が姉で柚葉が妹」


「姫様、歳で言うなら私の方が姉ですよ」


「見た目は私の方が大人っぽくて年上に見えるでしょ?」


「つまり歳を食ってるように見えるわけだ」


茶々を入れた朔に凶姫の頬が膨れる。

――先程は取り乱して泣き叫んでいた凶姫がすっかり落ち着いたことで、こんなことが今まで何度も繰り返されてきて慣れているのだと感じた。


「少し寝るから後は雪男になんでも言って」


「おやすみなさい主さま」


なんとなく避けられている感がある柚葉にそう言ってもらえて少し嬉しくて笑うと、柚葉がぱっと顔を逸らした。


「主さまの女たらし」


「失礼な。俺は何もしてない」


冷やかしの言葉をかけてきたのは仲良く庭を掃いていた白雷と氷輪だ。

ふたりはことあるごとに凶姫と柚葉を比べては朔がどちらを嫁に迎えるか賭けを繰り返していた。


「俺は柚葉さんの方かなー。優しくなでなでされたいー。氷輪はー?」


「……俺はどっちも」


「ずっりぃぞ!どっちか選べよなー!あ、でも凶姫さんに叱られてみたいかもー」


「白雷、変態」


白雷が氷輪の首をぎゅうぎゅう絞めているその漫才のような光景に柚葉が微笑み、凶姫は会話の内容は聞き取れなかったが明るいふたりの声に頬を緩めた。


「ここは本当い居心地がいいわ。よくて困っちゃう位」


「そうですね、ここは主さまの結界内ですから」


あたたかい日差しが降り注ぐ中、ひとときの平穏に酔いしれる。

こんな日が続けばいいと心底思った。