宵の朔に-主さまの気まぐれ-

男は帯刀していたが、刀を抜くことなく意識を取り戻したが動けないでいる父たちにゆっくりと近付いて行った。


凶姫はただただ動けず、いつもの勝気な性格もなりを潜めて足を震わせながらそれを見つつ叫んだ。


「やめて!何もしないで!あなた、誰よ!」


「この国の者ではない生き物だよ。ああお前のその恐怖に濡れた目も美しいな。最適だ」


…何が最適なのか?

目を見張る凶姫の眼前で、その凶行は繰り広げられた。


男が父たちに手を翳す。

その掌から放たれた闇色の閃光は的確に皆の心臓を抉って絶叫をあげさせた後、絶命した。

その苦悶の声、表情…この男は全てを愉しんでいるように見えた。


「父様!兄様ぁ!!」


何かが二階で起きている――母や使用人たちもそれを感じて一斉に駆け上がって来る足音がすると、凶姫は階下に向けて必死に叫んだ。


「来ないで!殺されてしまう!」


「お嬢様!今助けに参ります!」


刀を手になだれ込んでくる使用人たちが姿を見せる度に、男は無情にも闇色の閃光を放ち続けて次々と屠っていった。

恐怖のあまり呼吸も乱れて四つん這いになりながらもその光景から目を離せないでいた。


「みんな…!みんな…っ!」


「おお、お前が娘の母か。美しいが俺が求めているものをお前は持っていない。だから死ね」


「芙蓉!」


最後に母が姿を見せて目が合った。

目が合ったと同時に母の口から血が溢れて、ゆっくりと倒れ込んだ。


優しかった父母、兄弟、使用人たち――皆殺しにされて、残るは自分ひとり。


「これで済んだようだな。じゃあ…お前を頂こう。その目を。…いや、目だけじゃない。お前を」


「!?な…っ、やめて、触らないで!」


「好きなだけ叫べ。そしてお前を助けに来た奴らを皆殺しにする」


喉が痞えた。

これ以上誰かを死なせるわけにはいかない――


犠牲になるしかなかった、