宵の朔に-主さまの気まぐれ-

幽玄町の大通りを半分ほど進むとさすがに足が痛くなり、それを朔に訴えたかったのだが皆の嬉しそうな顔を見ていると言い出すことができずになんとか耐えていた。

それでも何度も朔の顔をちらちら見上げてしまって、目が合うとぱっと逸らして皆に笑顔を向けた。


「どうしたの」


「え?い、いいえ、何も」


明らかに不審だし、ひょこひょこ歩いているような気がして足元を見下ろした朔は、下駄の鼻緒のあたり――足袋に血が滲んでいるのを見てぴたりと足を止めた。


「主さまどうした?」


「大変だ。芙蓉の足に血が」


雪男が凶姫の足を見下ろしてそれを確認すると、この男もなかなかの心配性――それを知っている凶姫は花嫁行列をやめるのではないかと焦って首をぶんぶん振った。


「大丈夫だから…平気よ、我慢できるわ」


「俺が我慢できない。雪男」


「了解」


雪男が上空に向けて口笛を吹くと、どこからか颯爽と風を切りながら虎柄の猫又が飛んできて、音もなく朔たちの前に着地した。


「猫又に乗ればいい。それなら問題ない」


凶姫をひょいっと抱きかかえた朔が先に猫又に乗せて次いで凶姫の後ろに乗って腰を支えると、横向きに座らせた凶姫は目線がかなり高くなってあわあわしながら人だかりに目をやった。


「兄さん、同乗してもいいですか?」


「ん、来い来い」


実は柚葉も結構足にきていて黙っていたのだが、輝夜はそれを察していて同じように柚葉を乗せて隣り合った花嫁ふたりが吹き出した。


「ちょっと…こんなことでいいのかしら」


「いいんじゃないか?花嫁行列を続けたいんだろう?」


「もちろん!」


声を揃えた凶姫と柚葉はようやく気持ちに余裕ができて、人だかりに手を振った。

猫又がことさらゆっくり歩いてくれるため揺れも少なく、朔たちの愛する街並みを眺めながら行列がゆく。


その頃屋敷の前には暁を抱っこした天満が正装して待っていた。


「もうすぐ君の両親が戻って来るからね」


「あーう」


赤と黒に変化する母譲りの大きな目で天満を見つめてへらっと笑った。