宵の朔に-主さまの気まぐれ-

紋付き袴の羽織姿の朔と輝夜はとても男らしく見えて、凶姫は何度もちらちら朔を見上げながら門を潜った。

そこから先は人々が殺到しないように百鬼が壁を作り、雪男や焔たちが新郎新婦である朔たちに傘を差して、見目の良い百鬼たちが太鼓や笛を鳴らして列をなす。

人々が紙吹雪を投げながら彼らを祝い、この町を仕切って守ってくれる朔の門出を祝い、その美貌に目が眩みながらも列にかじりついてなんとしても気絶してなるものかと踏ん張っていた。


「さ、朔…すごい人の数ね」


「ん、でも彼らは親族もとい本人が罪を犯した身。今以上に罪を犯せば俺はともかく百鬼の腹に収まることになる。俺たちは恐ろしい存在でなければいけないんだ。でも今日だけは祝ってもらいたいし、恐ろしい存在でない自分でいたい。我が儘かな」


「いいえ、あなたが居る限り、よその妖に襲われることはないのよ。あなたは恐ろしい存在であり、何者からも守ってくれる得難い存在よ。自信を持って」


凶姫に励まされて頬を緩めた朔の表情に近くの人々からため息が漏れて、次いで後ろを歩いていた輝夜は変わらない街並みを眺めながら、懐かしさに目を細めていた。


こうしてここに戻って来てこれたのは柚葉のおかげであり、兄の傍に居たいとはじめて強く願ったからだ。

代々幽玄町を治める家の者として規格外れの自分が受け入れられるのかと最初の頃は不安に思っていたが、すんなり受け入れられすぎて拍子抜けしてしまうほど自然に受け入れてもらえたこと――


「鬼灯様、皆が喜んでくれてます。嬉しい…」


「兄さんや私が守るべき存在です。お嬢さんも例外じゃないですよ、あなたは店を構えて彼らと交流することもあるでしょうから」


「はい、私は楽しみにしてますよ。鬼灯様もたまにはお店に立って下さいね」


「ええもちろん。お嬢さん、疲れたらすぐ言って下さいね」


「ふふ、まだ始まったばかりじゃないですか。鬼灯様の心配性」


歓声に会話がかき消されそうになって、大声で話しながら笑みが止まらなかった。


今まで耐え忍んで生きてきた甲斐があった――

凶姫と柚葉は、過去を噛み締めながら一歩一歩前へ進んだ。