宵の朔に-主さまの気まぐれ-

祝言当日早朝――山姫は雪男と共に静まり返った縁側でふたりだけで酒を飲み交わしていた。


「今までお疲れさん」


「ありがとうねえ。あたしみたいな実力のない者を傍に置いてくれた先代と、いつも悩みを聞いてくれたあんたに感謝だよ」


雪男と山姫は共に先代の時代からの側近で、山姫は百鬼夜行に出ることはなかったがその分屋敷の全てを仕切っていた。

雪男がこの屋敷に来た時すでに山姫は先代の世話をしていて、このふたり…深い仲なのではないかと疑ったほどだ。


「あんな石頭で唐変木が女を傍に置くなんてなかったことだからな、お前は優秀だったんだよ。しかしよく惚れなかったな」


「あたしは先代をいい男だと思っていたけど、抱かれたいとか好いたりとかは一切なかったね、だからこそ傍に置いてくれたんだ。あたしとしては逆にこんな男強くなければ見向きもしなかったのにって思ってたよ」


はははと二人声を上げて笑い、ため息をついて脚を崩した山姫の盃に酒を注いだ。


「次は女の当主だろ?悪いけどあたしは心配性だから百鬼を抜けてもここへは足繁く通うからね」


「おう、そりゃ歓迎だぜ。白雷は置いて行くのか?」


「あの子は主さまが大好きだし力が有り余ってるからいいように使っとくれ。どうにも九尾の力が強くて本人も持て余してるみたいだから」


「雛の婿になるんだって息巻いてたけど、主さまと天満が立ちはだかるんだろうなあ、やべえ、すげえ面白くなってきた」


山姫は今日をもって百鬼を抜ける。

今後の余生は晴明と共に平安町で暮らすことになり、共に苦難を乗り越えてきた同志は男女の仲を超えて肩を抱いて雪の残る庭を眺めていた。


「息吹がきっかけで、ここはものすごく騒がしくて楽しい場所になった。お前が息吹を拾って来なかったら先代は未だに独り身だったかもしれない。俺もどうなってたか分からない。山姫、お前が変えたんだぜ。感謝してるよ、ありがとな」


「ちょっと…やめなよ、目から汁が出るじゃないか…!」


「ははっ、今日くらいいいだろ?最後に女らしいとこ見せてみろよ」


「このすけこまし。朧を泣かすんじゃないよ」


「元すけこましって言え!後は俺に任せとけって」


雪男の肩に顔を埋めて声を殺して泣いた。

あたたかくて優しくて、楽しい場所…


今度も鬼頭一族に栄光あれと願って――