宵の朔に-主さまの気まぐれ-

敵の数が多かったため、天満を筆頭にかなりの返り血を浴びた朔たちは、そのまま幽玄町に帰ることはせずに朔の憩いの泉を訪れていた。


「ああ身体が痛い。久しぶりに動いたから筋肉痛が…」


「鈍っていてあれだけ動けるのなら大したものだぞ。お前は暁の護衛役にもなれるな」


あらかじめ毎回猫又の背には着替えが用意されてあり、手で顔を洗っている猫又を眺めながら兄弟三人で雑談に花が咲いた。


「護衛役には雪男が居るじゃないですか。僕なんてずっと引きこもりだったんだから急には無理ですよ」


「誰も急にとは言ってない。ちゃんと稽古をつけてやるから、祝言が終わったら毎日特訓するぞ」


「ええ……っ、お手柔らかにお願いします…」


滾々と沸く泉はまだとても冷たかったが、朔たちは気にも留めず、手で血痕を洗い落としながら明けて行く空を見上げた。


「雪男もそろそろゆっくりさせてやらないとと思っていて提案してみたんだが固辞された。あいつもまた戦闘狂だからな」


「あいつもってなんですか。僕は違いますよ」


「天満、お前は間違いなく戦闘狂ですよ。如月もそうですがうちは血の気が多い者が多くて困りますねえ。私なんて戦うのは本当にいやなのに」


輝夜が泉から上がって手拭いで身体を拭いて新しい着物を羽織ると、天満もそれに続いて濡れた髪をかき上げながら不服そうに唇を尖らせた。


「僕のことを陰で修羅だの夜叉だの言ってたのは知ってるんですからね。でも暁のためならまあ…修羅でも夜叉にでもなりますけど」


「おいおい、暁の父は俺なんだけど」


笑い声が上がり、朔も泉から上がって身体を拭いていると、輝夜と天満に髪を拭かれたり着物を勝手に着させられたりでもみくちゃにされて輝くような笑みを見せた。


「鬱陶しいな、離れろ」


「いやあ、今日は兄さんをあまり触れないと思うので今のうちに」


「僕も僕も」


祝言当日を迎えてもなお全く緊張していない朔と輝夜に今度は天満がもみくちゃにされて、彼らは幽玄町に戻った。