宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔の持つ天叢雲と天満の持つ妙法、揚羽という名の二振りの村正は共に妖刀であり、喋る。


『おお村正か、久しいな』


『これは天叢雲殿、ご健在で。相変わらず錆ひとつなくお美しい』


『ふはは!錆などつくか!今宵は残虐の限りを尽くそうぞ』


『応』


『応』


「おい待てお前たち。好き勝手にはさせないぞ。もし暴走したらお前を折って二振りにしてやるからな」


『おお怖い怖い』


嫌がる天満を連れて百鬼夜行に出た朔は、上空で荒ぶる風に髪をなびかせながら辺りをきょろりと見回していた。


――囲まれている。


明日が祝言であることは広く知られているため、対抗勢力も今夜と明日を狙って襲撃に来る者も多い。

だが明日は朔たちが休んでいる間であっても各地に散らばる同志たちが目を光らせてくれるため問題ないのだが…


「輝夜…数が多いな。やれるか?」


「やれますよ、短期決戦で行きましょう」


「待って下さい、朔兄、輝兄」


ふたりが振り向くと――天満は腰に差した二振りの村正を音もなくすらりと鞘から抜いて、壮絶に美しい笑みを浮かべた。


「明日祝言を迎えるおふたりに怪我があってはいけません。ここは僕にお任せを」


「お前身体が鈍ってるとか言ってたじゃないか」


「例え鈍っていても、お二人より速く動けますから大丈夫」


「言いますねえ」


朔と輝夜が笑いながら避けて道を譲ると、急接近してくる敵集団をまっすぐ見据えた天満が一瞬身を屈めた。

屈めたと思ったらもうその場に姿はなく、血しぶきが真っ赤な霧となって向かってきていたはずの敵集団を包み込んでいた。


「相変わら速いですね」


「ああ、そして相変わらずやっぱり俺たち兄弟の中で一番喧嘩っ早い」


「いい子ぶっていても天満が切り込み隊長の如く一番に突っ込んでいきますからね。あの二刀流を躱せる者など居ないでしょう」


まるで剣舞。

途方もない速さで敵の間を走り抜けて斬りつけて、その命を奪う。

その目は爛々と光り、屋敷でのほほんとしている時の天満とはまるでかけ離れていた。


「芙蓉たちには黙っておこう。あいつのお株がまた上がってしまうからな」


「そうですね、そうしましょう」


嫌がらせ兄弟、にやにや。