宵の朔に-主さまの気まぐれ-

天満が暁の後見人として今後ずっと屋敷に残ると正式に発表されてから、それを誰よりも喜んだのは雪男だった。


「天満、お前が後見人なら俺の肩の荷も軽くなるってもんだ。女の子の当主だからさ、俺ひとりだと正直不安だったんだ」


「いやいや、僕は大して役には立たないよ。雪男が刀術全般、僕は習い事全般。ちゃんと役割分担をしよう」


「お前はあれだろ?雛が正式に当主になったら百鬼夜行について行くんだろ?」


雪男が暁を雛と呼ぶのは、真名を呼ぶのを避けているからだ。

朔の時もそうだったのだが、次期当主になる者の真名を口にすることを控えている雪男がさも当然だと言わんばかりに茶を飲みながら言われた天満は、やれやれと肩を竦めてついでに首も振った。


「僕は戦力にはならないって。身体も鈍ってるし、期待するのもたいがいに…」


きん、と雪男の真っ青な目が殺気を帯びて鋭く光ると、天満は咄嗟に飛び退って体勢を低くして身構えた。


「鈍ってねえし十分動けてんじゃん。お前昔からそうだよな。なんだかんだ言いながら実は一番…」


「一番…なに?」


それを縁側で聞いていた凶姫が先を促したが、天満は裾を払って伸びをするように身体を逸らして暮れて行く空を見上げると、にこっと笑ってぽうっとさせた。


「なんでもありません」


「天満」


静かに声をかけられた天満が自室から出て来た朔に目を遣ると――その手に握られているものに、ぎくっ。


「隠していたつもりか?こんなもの、妖気が駄々洩れで隠しようがないぞ」


朔が手にしていたものは、天満の愛刀――妖刀村正だ。

しかも村正は二振りあり、凶姫が目を丸くしていると、朔は二振りの刀を天満に向けて放物線を描いて投げてにっこり。


「今日の百鬼夜行はお前もついて来い。その二刀流、久々に見せてもらうぞ」


「ははは…お手柔らかに…」


天満は乾いた笑みを浮かべたが、朔はにこにこ三昧、ついでに暁もにこにこ三昧。