朔の弟妹たちは凶姫が想像していた以上に大人数で、普段は雪男や朧や山姫たちが屋敷内を掃除しているのだが、この大人数で取り掛かるとあっという間に全ての部屋がきれいになった。


祝言の日まであと二日――

その間に天満が暮らしていた場所から全ての私物が屋敷に運び込まれ、弟妹たちはそれを口々に羨ましがっていた。


「天兄だけ狡い!私も住みたい!」


「お前たちは夫や妻のある身。ですが天満は独り身であり暁の後見人。お前たちとは違うのですよ」


「そうそう。天ちゃんが居ないと暁ちゃん大泣きするんだからみんなも天ちゃんを責めちゃだめだよ、朔ちゃんがお願いしたからここに残ってくれるんだからね」


ある意味一家の大黒柱である息吹にそう言われてしまうとぐうの音も出ず、やることのなくなった弟妹たちは好き勝手に町に出かけたり百鬼夜行について行ったりで日々を謳歌していた。


祝言にあたり、幽玄町内は人々が自発的に掃除をして往来には塵ひとつないような状態になり、祝言の列が通らない場所さえも驚くほどきれいになっていた。


――凶姫は緊張を隠し切れないようになり、ひとり鏡台の前に座って自身の顔をじっと見つめていた。

長い間目が見えず、その間は柚葉が手入れをしてくれたり化粧をしてくれた。

目が見えるようになってはじめて鏡台で顔を見た時は、見えなかった時よりも少し大人びた自分が自分を見つめていて驚いたものだ。


足音が聞こえて誰かが近付いてきたのを知った凶姫は、すっと立ち上がると肩越しに障子を開けた相手を振り返った。


「呼んでるって聞いたんだけど、どうした?」


「朔…ちょっと確認してくれない?」


「何を?」


意を決して――ぱさりと羽織を落とし、帯を緩めてそれも畳に落とした。

驚いて固まっている朔に全てを脱いで露わになった肌のままちゃんと振り返って、目を合わせた。


「私の身体…どう?元に戻っているかしら?」


「あ…え、ええと…元に戻っているというか…胸は元に戻ってないな。いつもより大きい」


何故か動揺して目を泳がせている朔にすうっと近付いた凶姫は、朔の細く強靭な腰に腕を回して抱き着くと、大きく息をついた。


「ふたり目を安産で生んであげるためにいつもよりは食べる努力はするけれど、ぶくぶく太りたくはないの。あなただってまた私の舞いを見たいでしょう?」


「うん、見たい。芙蓉、もう少し身体を休めたらふたり目に恵まれるために励もう」


ゆっくり唇を重ね合って、誓い合った。