いくら祝言の準備があるとはいえ百鬼夜行は毎夜行われる。


「暁…そろそろ寝る時間だから離れましょうね」


「あぅーっ、あーあー」


天満に抱っこされてご満悦だった暁を半ば無理矢理引き剥がすようにして離れさせた凶姫は、突然暁がぐずりはじめて宥めるのに四苦八苦していた。

朔の弟妹たちは代わる代わる暁をあやしてくれたり抱っこしてくれたが、その時は大人しく抱っこされているものの、最終的には天満に手を伸ばして凶姫を困らせていた。


「天満さん、ごめんなさい暁が。この子今までこんなに困らせたことはないのに…」


「暁は感じ取っているのかもしれませんね、実は僕が寂しがり屋なことに」


――雰囲気は輝夜に似ているが、輝夜は一瞬女と見紛うほどに中性的であり、天満は誰が見ても男と分かるが少し垂れた目元が穏やかな性格であることを象徴している。


「いつ…奥様たちがお亡くなりになったんですか?」


「夫婦になってすぐですよ。子を生む時に難産で…。生まれはしましたがその時すでに息はなく、妻もそれが原因で」


「そうでしたか…」


「だからこうして腕に抱くことができたのはほんの数回でした。…いけませんね、まるで我が子のように感じることがあって、僕も離れ難くなる時があります」


深々と降り積もる雪を見ながら目を細めた天満の横顔は寂寥感に溢れていて、凶姫は目に涙が浮かぶのを感じた。

朔が父で自分が腹を痛めた生んだ子だが、暁は誰よりも天満に懐き、傍に居てほしたがる。

朔は先程、天満にこの屋敷に住んでほしいと言って天満を困らせていたが、ここは一押しすればもしかしたらこの男の心を動かすことができるかもしれない――


「天満さん、ちょっとこの子を寝かしつけてきますね」


「ああ、はい」


腕の中でもがく暁を連れ去るようにして朔の部屋へ連れて行こうとした時――


暁が、大声で泣き叫んだ。


「あーん、あー、あー!あーん!」


小さな手を天満に伸ばす。

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら必死に泣き叫ぶ。


「暁…」


天満は無意識に腰を上げて、泣き声を追った。