宵の朔に-主さまの気まぐれ-

柚葉の店が大ごとになっているのを猫又に乗って遥か上空から見ていた朔は、まだ口惜しそうに愚痴を零していた。


「俺も行きたかったのに」


「あなた立場っていうものを考えなさいよね。そんなに行きたいなら変装して行けば?」


「変装か、うん、それは考えてなかった。今度やってみよう」


真剣に頷いている朔の前に乗っていた凶姫は、暁を落とさないようしっかり抱っこして素晴らしい景色を見せてあげていた。

まだ目が見えているのかは分からなかったが、上空からは碁盤状にきれいに整備された平安町の街並みと、それに匹敵するほどきれいな街並みの幽玄町が一望できて、小さく揺すってやりながら優しく話しかけた。


「ほら見て暁…あなたの父様が治めてる町と、あなたが今後守るべき人たちが住む町よ。きれいね…」


「あぶぅ」


暁がしきりに小さな手を伸ばしてまるで町を掴もうとしているようで、朔は凶姫の腰を抱きながらもう片方の手で暁の頭を撫でた。


「楽しそうにしてるな。やっぱりこの子には素質がある。だけど…」


「だけど女の子だから当主にはできるならさせたくない、でしょう?あなたのその杞憂はふたり目ができるまで続くんでしょうね」


艶やかな凶姫の長い髪を撫でた朔は、黒や赤に変化するふたりの目に見つめられてややどぎまぎしながら笑った。


「暁が‟自分が当主だ”っていう目で見てるんだけど。とにかく俺は暁を一人っ子にはしないからお前に頑張ってもらうしかないな」


「ええ、どうぞ私を頼りなさい。息吹さんには負けると思うけれど、せめて片手の指位の人数は生みたいわ」


「それは素晴らしい心意気だ。ところでもう店仕舞いしてるみたいなんだけど、今行くわけには…」


「だ、め!」


また叱られて、しょんぼり。