朔と凶姫の喜びようは、輝夜の想像を遥かに超えていた。

兄至上主義の輝夜としては笑顔全開で抱きしめられて、もう照れて仕方がなくて、おずおずと背中に手を回してぽんぽんと叩いた。


「ありがとうございます。雪男もとても喜んでくれました」


「それはそうだろう、あいつは俺と同じ位お前のことを心配していたからな」


「こうしてはいられないわ!柚葉はどこっ?」


「お嬢さんはまだ寝ていますのでもう少し寝かせてあげて下さい」


――凶姫はにやにやが止まらなくなって、両手で口を覆うと座椅子に身体を預けてずっと不気味な笑い声を上げていた。


「ふふ、ふふふふふ…」


「芙蓉、怖いぞ。どうした」


「ねえ、一緒に祝言を挙げるわけにはいかないの?」


朔と輝夜が顔を見合わせた。

それは名案であり、まだ興奮が収まっていなかった朔と輝夜は同じようにぽんと手を叩いて声を揃えた。


「それは名案だ」


「何も輝夜さんが後で祝言を挙げる必要もないじゃない。一緒にやればいいのよ」


冷静に考えてみると、その方が準備は一度で済む。

正式にこの報を幽玄町の人々たちに知らせるのも一度でいいし、祝言の準備も一度でいいし、損なことはひとつもなく、むしろ理にかなっている。


「輝夜、どうだ?」


「お嬢さん次第ですが、私は構いません。構いませんというか、むしろそうして頂きたいです」


そう言われて少し伸びた長い前髪を耳にかけて笑った朔の笑顔に凶姫は密かにきゅんとなり、大親友の柚葉ともしかしたら一緒に祝言を挙げて喜び合うことができるかもしれないと思うと、胸が高鳴ってどきどきした。


「素敵…とても素敵…!」


「芙蓉は乗り気だな、じゃあ俺もそうしたい。柚葉が起きるのを待って、ちゃんと話を詰めよう」


「ええと、その前に…」


輝夜にとっては最難関の事案がひとつ。


「母様たちにこのことを話さなくては」


小さく唸って額を押さえて苦笑した。