「男か女か知りたいと?いくら私でも生まれ落ちてくるまでは分からぬよ」


「そうですか、でもどっちでもいいんです。無事に生まれてきてくれれば」


検診を終えた晴明は、随分大きくなった凶姫の腹に目をやって小さく笑った。

孫に子ができる――つまりひ孫ができるわけで、指をいくつか折って生まれ月を計算していた。


「やはり春頃だねえ。良い季節に生まれてくるはずだよ。出産のいろはは息吹に聞くといい。私の愛娘は出産に関しては熟練だからね」


「はい。あの…私も子沢山に恵まれたいのですが…私の身体はどうでしょうか」


朔に寄りかかってふたり手を取り合っている凶姫を上から下までさらっと見た晴明は、懐から巾着を取り出して凶姫の膝に置いた。


「まずはその細すぎる身体をどうにかせねば。懐妊していてなおその細さなのだから、子沢山に恵まれたいのならばもう少しふくよかになることだよ」


膝に置かれた巾着を開いた凶姫は、赤い目を緩めて声を上げて笑った。

中からは砂糖菓子や金平糖が沢山出てきて、金平糖をひとつ口に含むと朔の口にもねじ込んで肩を抱いてもらった。


「息吹さんだって細いけれど…」


「お前はさらに細い。子が生まれてきたら徹底的に食わせるからな」


「それも大切だが、そなたは腰回りが生まれつき細い故、難産になりやすい可能性がある。何か異変が起きたらすぐ私に式神を飛ばすんだよ」


「はい、ありがとうございます」


晴明が部屋を出ると、難産になりやすいと言われた凶姫は不安を覚えて朔に縋り付いた。


「難産って…」


「大丈夫だ、心配するな。お祖父様も居るし、母様も何度か難産になった経験があるから明日早速話をしに来てもらおう」


ええ、と返事をして砂糖菓子を口に入れようとした時――勢いよく襖が開いた。

何事かと目を白黒するふたりの前に仁王立ちになった朧は、廊下に立って部屋に入ろうとしない輝夜の手を引っ張って引き入れてとんと背中を押し出した。


「ほら、輝夜兄様っ!」


「ああ、はい。ええと、あの…兄さん、大切な話があるんです」


はにかむ弟の様子にまた朔が首を傾げたが――

もたらした朗報にみるみる満面の笑みになって、雪男がしたようにくしゃくしゃと髪をかき混ぜた。