昼を過ぎた頃、ぐっすり眠っている柚葉の隣から抜け出た輝夜は、事の次第を朔に知らせようと居間に移動したがそこに兄の姿はなく、雪男が軽く手を挙げてきた。


「よう、主さまは凶姫の腹の子の経過観察で晴明たちと部屋に居るぞ。…どうした?」


「え?何がですか?」


「やけに嬉しそうだからさ。なんかあったのか?」


――さすが育ての親ともいえる男。

抜け目なく僅かな変化を察した雪男の隣に座ると、小さな頃から心配ばかりかけて、時には厳しく怒られ、時には…いや、いつも優しくしてくれた雪男の肩を肩でとんと叩いた。


「実は嫁を貰うことになりました」


「…はっ?嫁って…柚葉か?」


「ええ。他に誰か居ましたっけ?」


目が点になっている雪男の顔があまりにも面白くて輝夜が吹き出すと、真っ青な目が少し潤んでぎょっとしてしまった。


「いやこれは違う!ただの水だ!」


「まさかあなたを泣かすことになるとは。ですが兄さんの祝言が先ですよ。仮ですが、お嬢さんとはもう夫婦契りと言いますか、約束をして酒を酌み交わしましたので」


「そっか…そっか!良かったな輝夜!ようやくこれで全員所帯持ちになるんだな!」


ぐりぐり、わしゃわしゃ。

髪をかき混ぜられてくしゃくしゃになった輝夜は、とても喜んでくれることがとても嬉しくて照れて俯いていると、朧がたたっと駆け寄ってきた。


「お師匠様、輝夜兄様…どうしたんですか?」


「あのなあ朧、めでたい話があるんだ。主さまたちより先に喜ばしい話を聞いてやってくれよ」


ただただ微笑んでいる輝夜と話をしてくれた雪男の顔を交互に見ながら話を聞いていた朧は――満面の笑みになって、輝夜に抱き着いた。


「輝夜兄様!本当に!?本当なんですね!?」


「ふふ、はい。喜んでくれてありがとう」


「こうしてはいられません!輝夜兄様、今すぐ話を聞いてもらって下さい!さあ、早くっ」


末妹に手を引っ張られて、少し浮かれた気分で廊下を歩く。

兄は喜んでくれるだろうか?

心配するまでもなかったけれど――