宵の朔に-主さまの気まぐれ-

当主は妻を何人も持つことが許されているが、他の弟妹たちは一夫多妻制らしい。

よって輝夜も妻をひとりしか持つことができないわけで、そのひとりに選ばれる自信のない柚葉はもやもやしたまま作業をすることも忘れて畳の上に寝転んでいた。


「あの中から…お嫁さんが…」


きっと家柄も素晴らしく気立ても良く、できた女ばかりなのだろう。

自分の家も一応名の通った家ではあったが数百年も続くような家柄ではなく、それも気が劣る一因でもあった。


「私は…鬼灯様がお嫁さんを貰うまでの間の繋ぎ…?」


口に出して言ってみるとひどく散漫な気分になって、不安になって――涙ぐみながら凶姫の部屋を訪ねて抱きしめてもらった。

そうされると一気に涙が溢れて、朔の共謀者である凶姫は柚葉を騙すことに罪悪感を覚えてその思いを問うた。


「あなたは輝夜さんが好きなのよね?」


「はい…」


「じゃあちゃんと言葉で伝えないとね。このままじゃ本当にあの中からお嫁さんを選ばされるかもしれないわよ。それでもいいの?」


「いや…いやです…!」


とうとう声を上げて泣いてしまった柚葉の涙を手拭いで拭いてやった凶姫は、こんな茶番は早く終わらせなければと心に決めて、何度も謝った。


「ごめんなさいね、柚葉…。ごめんなさい」


「どうして姫様が謝るんですか…?私がいけないんです。はっきり気持ちを伝えられないから…」


「柚葉、大丈夫よ。あなたは鬼灯様に愛されてる。自信を持って」


「私…私……鬼灯様のお嫁さんになりたい…」


願いを口にする。

はっきりと柚葉の意思を聞いた凶姫は、明日朔に話そうと内に秘めて柚葉を床に誘った。


「今夜は一緒に寝ましょう?昔みたいに…いいでしょう?」


「はい…。姫様、ありがとう…」


未だ涙の溢れる柚葉を抱きしめて、朝を迎える。