宵の朔に-主さまの気まぐれ-

こんなにも自分の引っ込み思案、気の弱さを変えたいと思ったことはなかった。

男女の関係になったからといって、自分のものになったわけではない。

今は好きでいてくれているかもしれないが、ここに留まると決めたのだから、これからは選り取り見取り――様々な系統の美女と知り合うだろうし、言い寄られることも絶対にあるだろう。


「もう…私…やだ…」


こういう時何をするかというと――違うことに集中して気を紛らわせる。

最初は集中して手を動かしていたものの、夕暮れになって百鬼夜行の時間が近付くと見送りに出ざるを得ず、居間に戻った柚葉は相変わらず美女たちに囲まれている風景に辟易して輝夜の前を素通りした。


「あ、お嬢さん…」


「主さま、行ってらっしゃいませ。姫様のことは私がちゃんと見ていますから大丈夫ですよ」


「ん。柚葉…お前は大丈夫か?」


気遣ってくれる朔を見上げた柚葉が少し泣きそうな顔をしていたため、いたたまれない気分になってしまった朔は、頭をぽんぽんと叩いて優しく笑いかけた。


「欲しいものは欲しいと言った方がいい。でないと輝夜はお前に好かれていないかもしれないと思うかも」


「そ!そんなことは絶対にありません!」


思わず声を荒げた柚葉は顔を赤くして両手で口を塞ぐと、傍に立っている輝夜の気配を感じて向き合って頭を下げた。


「行ってらっしゃいませ…」


「はい。お嬢さん…私たちが居ない間、彼女たちと仲良くできますか?」


…いわば恋敵。

さすがにそれは無理だと強く思って、ぶんぶんと首を振って珍しく強固な意志を示した柚葉は、見守っていた凶姫の腕にくっついて顔を隠した。


「私は…無理です…」


「そう…ですよね。気は遣わなくていいですよ、部屋に居て下さい。戻ったらすぐ会いに行きますから」


「…はい…」


もやもや。

ぎくしゃくしつつもちらりと美女たちを見ると、うっとりとした表情で輝夜を見ていていらいら。


沸点が近付いて来ていた。