宵の朔に-主さまの気まぐれ-

その数日後――朔と雪男の息のかかった鬼族の美女が四人、屋敷に召集された。

皆それぞれ名家の者だが、それぞれ実はもう夫が居て、あくまで作戦に協力してほしいと頼んでいるため、のりのりで縁者を気取っていた。


「鬼灯様、お会いしとうございました」


「ああ…はい。こんにちは」


「鬼灯様、私を覚えてらっしゃいますか?幼い頃何度かお会いしたことが…」


突然現れた美女たちに柚葉は心臓が止まりそうなほど驚いて、居間の上座に座っている朔の傍で居心地悪そうに座っている輝夜を見てあわあわしていた。


「ひ、姫様…な…なんですかあれは…」


「輝夜さんのお見合い相手らしいわよ。しつこいらしくて、とにかく一度会いたいということになったみたいで…柚葉…大丈夫?」


どうやら彼女たちは顔見知りらしく、親しげにきゃっきゃと声を上げて話しかけている間に輝夜も打ち解けて笑みが零れるようになり、柚葉は居間の最後方でその様子を焦れながら見ていた。


「ああそうだ、芙蓉、柚葉、こっちへ」


朔に呼ばれて柚葉の手を引っ張って立たせた凶姫は、彼女たちの後方を回り込んで朔の隣に座った。

美女たちに穴が開くほど見つめられて検分されているのを感じて変な汗が止まらなくなった柚葉だったが、朔はあっけらかんと彼女たちに紹介して見せた。


「芙蓉は俺の妻で、柚葉は妻の親友なんだ。仲良くしてやってくれ」


「もちろんですとも!柚葉さんはお慕いしている方はいらっしゃらないの?鬼灯様や主さまが傍に居ては他の男など目に入らないかもしれませんが」


問われてごくりと息を呑んだ柚葉は、ちらりと輝夜を見た。

輝夜は静かに目を伏せていて、本当に彼女たちの中から嫁を選ぶかもしれないと思うと気が気ではなく、足をもつれさせながら立ち上がってなんとか笑って見せた。


「お慕いしている方は居ますが、私なんて勇気がなくてなかなか言葉で伝えられなくて…失礼します」


逃げるように居間から出て行った柚葉を一同ぽかんとしながら見た後、朔は輝夜を顔を見合わせて腕を組んだ。


「あと一歩というところだな」


「お嬢さん…傷ついてはいないでしょうか」


「多少は目を瞑らないと。輝夜、もうしばらくの間堪えてくれ」


「…はい」


――その頃柚葉は…


「もう!鬼灯様の馬鹿!馬鹿!!」


何度も枕を壁に投げつけては、怒りをぶつけていた。