宵の朔に-主さまの気まぐれ-

「お嬢さんは胸が弱いみたいで…可愛いですよね」


「芙蓉は首と耳と太腿が弱い。可愛い」


「いいなあ、私も早くお嬢さんの弱い所を見つけたいです」


…兄弟で柚葉と凶姫には絶対言えないような話題に花を咲かせているうちに百鬼夜行の時間が来てしまい、呆れた雪男がふたりを呼びに障子の外に立った。


「おーい、そろそろ行く時間だぞー」


「もうちょっと」


酒も進んでなおいっそう盛り上がっていると、しばらくしてから今度は問答無用に障子が開いて仁王立ち状態の凶姫に叱られた。


「ちょっと朔。大体どんな話をしてるのか予想はついてるけど早くしなさいよ。みんな待ってるわよ」


「仕方ない、じゃあ道中がてら話の続きをしよう」


「そうしましょう」


にやにやする朔と輝夜に不信感いっぱいの凶姫がまた叱ろうと口を開きかけた時――全ての動きが止まった凶姫の異変に朔はすかさず立ち上がってその身体を支えた。


「芙蓉…どうした?」


「朔……今お腹の中が…動いたわ…」


「え…本当に?動いたのか?」


――胎動。

凶姫をゆっくり座らせた朔は、その膨らんだ腹に手をあててじっと待った。

それを見ていた輝夜も思わず息を詰めて見つめていると――朔の手に、明らかに小さな動きが伝わった。


「本当だ…動いた…!」


「すごいわ…!本当に生きてるのね…!」


「私にも触らせてもらえますか?」


輝夜も加わり、掌を優しくあててみると、ぽこんと小さく叩くような感触がして三人で目を輝かせた。


「元気がいいな。ああ…百鬼夜行に出たくなくなった…」


「ふふ、じゃあ早く済ませて帰って来てちょうだい。私、柚葉に知らせてくるわ!」


「ああこら、走るなよ」


自室で休んでいるという柚葉の元に行ってしまった凶姫を見送った朔は、誇らしい気持ちになって部屋を出ると、待っていた雪男の肩を抱いた。


「おい氷雨」


「んあ!?な…なんだよ急に真名を呼ぶなよ…」


「俺の子が芙蓉の腹の中で動いた。なんてめでたい日だと思わないか?」


次代の百鬼夜行の当主――

いずれ自分もその子の側近として仕えるかもしれない立場の雪男の表情がみるみる綻んで、にやける口元を片手で覆いながら頷いた。


「そうだな、それはめでたい。他にもなんかめでたいことがあるのか?」


「帰ってから教える。お前たち!行くぞ!」


意気揚々と百鬼夜行に出て行く朔たちを見送った雪男だったが、その報だけで胸がいっぱいになって、にやけまくった。