宵の朔に-主さまの気まぐれ-

帰りが遅い柚葉たちを心配した凶姫は、庭でずっとうろうろ歩き回って帰りを待ち侘びていた。

輝夜が一緒だから何も起きないと分かってはいるのだが――


「朔!あなたちょっと様子を見に行って来てちょうだい!」


「行ってもいいけど何をそんなに心配してるんだ?」


弟に絶大な信頼を寄せている朔が首を傾げると、それが能天気に見えてまた食ってかかろうとした時――猫又が遥か前方の上空を飛んでいるのを見て雪男が指した。


「戻って来たぜ」


「柚葉!」


鬼族は目が良い者が多く、遠くからでもぐったりした柚葉を輝夜が抱えているのが見えて、小さな悲鳴を上げた。


「様子がおかしいな」


朔も眉を潜めたが、屋敷の上空を一度旋回してゆっくり下りてきた猫又の背に乗っている輝夜に駆け寄った凶姫は、やはりぐったりしている柚葉に動揺して目を吊り上げて輝夜を睨んだ。


「ちょっと輝夜さん!どうなっているの!?」


「ああ…ええと…お嬢さんはちょっと疲れてまして…」


困った表情を浮かべて口ごもる輝夜に支えられていた柚葉がゆっくり身体を起こして凶姫になんでもないと首を振って猫又から降ろしてもらった。


「私は大丈夫です。ちょっと途中雨に降られて雨宿りしてたから遅くなりました」


「そうなの?それは災難だったけれど…柚葉?あなたその首のところ…」


「ああそうだ、お嬢さんは身体が冷えているのでお風呂に入れてやってもらえませんか?」


「わ、分かったわ」


何かを見つけた風な凶姫の言葉を遮るように輝夜が口出しして、何かがおかしいと朔も気付いたもののそれが何だか分からずきょとん。


「すみません、私あまりまっすぐ歩けなくて…」


「支えてあげるからゆっくり行きましょう。……柚葉…あなたもしかして…もしかしたら…」


「な、何もありませんでしたよ!全然!全く!教えられたことなんてなにひとつできなくて……あ…」


ぼろが出た柚葉が両手で顔を覆い、その意味を考えた凶姫はじわじわ驚愕が迫ってきてものすごい力で柚葉の手を引っ張って廊下を走る勢いで歩き始めた。


「洗いざらい話して!今すぐ!」


「ゆ、ゆっくりって言ったのにー!」


即刻ばれて、今度は凶姫にぐいぐい迫られて――さらにぐったり。