宵の朔に-主さまの気まぐれ-

直接肌を通じて柚葉のやわらかい感触が触れた個所から身体全体へじわじわ伝わっていくのが分かった。

温めてやりたいだけ――口ではそう誠実ぶってみたものの、人生ではじめて愛しいと思った女に半裸の状態で抱き着かれて平静でいられるはずがなかった、と内心反省した輝夜は、母との制約も最早破ってしまったことで小さく息をついた。


「本当に…うまくいかないなあ」


「何がですか…?鬼灯様には今も全て見えているんじゃないんですか?」


「以前よりは全然見えませんよ。どうやら私に関わった者の未来しか見えなくなっているようですし、相変わらずお嬢さんの未来は全く見えません」


「それって私が死ぬってことじゃないですよね?」


茶化されてふっと笑った輝夜が約束通り目を閉じたまま柚葉の細い肩につっと指を這わせた。

一瞬びくっと身体が揺れたが拒絶されることはなく――


「鬼灯様の指って長くて細くて本当にきれい。主さまの指とそっくりです」


「母様が私たちを胎内で愛しんでくれましたから。私は元々死ぬ定めにありましたが、奇跡とは起きるものですね。欠けた状態で生まれたけれど、母様も父様も兄さんも愛してくれました。だけど私は家族以外にそれを返すことができなかった。…欠けていたから」


――輝夜が語っている間、柚葉は目を閉じてくれているのをいいことに輝夜の隅々を隈なく見ていた。

骨太ではなく細い身体つきだが骨と皮ではなくしっかり筋肉がついていて、引き締まっていて無駄が全くない。

少し長めの襟足が時々頬にかかってくすぐったかったが、輝夜の唇が動く度にそこに触れたいと思ってしまって、急に身体の熱が上がってきていた。


「でも取り戻したじゃないですか。もう何も悩むことなんてなくなったはずですけど、時々思い詰めた顔をしているのはどうしてですか?」


「それはあなたのせいじゃないですか?」


え、と身体を起こした柚葉だったが、またぎゅっと輝夜に抱き着いて小さく呟いた。


「私の…?何を…悩んでいるんですか?」


「…母様と妙な約束をしたせいであなたに触れることを避けていたから。あなたもまた迫る私を嫌がって清くありたいと願っていました。だから…」


――急に唇になにかとてつもなくやわらかい感触がして思わず目を開けた輝夜は、柚葉から唇を重ねてきたのだと知って言葉を失った。


「最初はそうでしたけど…でも…今は違います…」


至近距離で見つめ合う。

たかが外れた――身体の中で何かがかちりと音を立てた。