宵の朔に-主さまの気まぐれ-

言葉を交わさないまま、外から聞こえる雨の音に耳を傾けていた。

恐らく入り口に居る猫又が守りをしてくれているのだろうが、最奥に居る輝夜は寒さで震えている柚葉をどうにかしてやろうと背中を摩ってやっていた。


「寒いですよね?火を熾そうにもここには火種がありそうになくて」


「大丈夫です。鬼灯様こそずぶ濡れですよ」


「私は男ですからお嬢さんよりは平気ですけど…」


水を吸った着物というものは重たく冷たく、どんどん体温を奪っていく。

このままではいくら丈夫とはいえ病に罹りそうな気がして、ごつごつした岩壁に身体を預けていた輝夜は少し柚葉を起こして胸元から腕を抜いて柚葉の目を丸くさせた。


「ほ、鬼灯様!?」


「他意はありません。人肌の方が温かいという話ですよ。さあ、お嬢さんも脱いで」


「い、いやです!できません!」


「見ませんから。約束します。あなたを温めたいだけです」


――誠実で嘘偽りのない言葉だと分かっていたが、小さな胸を見られるかと思うとそれだけで恥ずかしくなって輝夜を凝視することしかできないでいた。

だが寒さは心を弱らせて、寒いのは自分だけではなく輝夜も同じなはず――輝夜を温めなければと一念発起した柚葉は、もごもご小さな声で訴えた。


「目を閉じていてもらえますか…?」


「いいですよ。準備ができたら私の手を握って下さい」


…柚葉は恥ずかしさと寒さで身体を震わせながら、輝夜と同じように胸元から腕を抜いて上半身を露わにさせた。

そしておずおずと輝夜の手を握ると――一気にその手を引かれてその鍛えられた胸にぶつかるようにして抱きしめられた。


「ほら、温かいでしょう?」


「はい…あったかい…」


人肌がこんなに心地いいなんて――


柚葉が思わずその胸に頬ずりをすると、輝夜は目を閉じたままぎゅっと眉根を絞って目を開けたい欲求と戦った。