宵の朔に-主さまの気まぐれ-

「鬼灯様、あの…少し出かけたい所があるんですけど、連れて行ってもらえますか?」


「いいですよ、どこにですか?」


「それが私の知らない所で…」


凶姫から話を聞いていた朔は、戸棚から地図を取り出して輝夜の前で広げて見せながらある場所を長い指でとんとんと叩いた。


「ここだ。上空からもなかなか見えにくいが、泉が湧いているからそこで柚葉は染色したいんだそうだ」


「そうですか。じゃあ猫又を貸してもらえますか?」


牛車の如く大きな猫又は時として荷物の運搬用にも用いられることがあり、庭をごろごろ転がって日向ぼっこしていた虎柄の猫又を借りた輝夜は早速反物などを詰め込んだ葛籠を背中に括りつけてごくりと喉を鳴らした。


「あの…私猫又さんに乗るのははじめてで…」


「大丈夫ですよ、私が支え…ます…から…」


――そこではたと気付いた。

支えるということは、すなわち柚葉に触れなければならない。

ここ最近ずっと柚葉に触れていなくて疼きを感じていた輝夜は、柚葉に触れるとどうなるか想像してみて一歩後退った。


「鬼灯様?」


「ええと…なんでもありませんよ。はい大丈夫です」


猫又に乗るのははじめてだが、ふかふかのその背中に実は乗ってみたいと思っていた柚葉は、その背によじ登って跨ってみると、温かさと柔らかさに目を輝かせた。


「すごい!ふかふか!可愛い!」


跨っているため普段あまり目にすることのない細い足首が見えると、輝夜はさらに唸って額を押さえた。


「輝夜、気張ってこい」


「兄さん…それはどういう意味でしょう…」


「お前は我慢し過ぎだ。せっかく解き放たれたんだから好きなようにしろ」


大興奮で柚葉がこちらの話を聞いていないのをいいことに兄弟がひそひそ話。


「理性的でいる自信がないのですが」


「理性的でいる必要なんかない。襲いたければ襲え。求めろ。柚葉も同じ気持ちなら応えてくれる」


「…はい。善処します」


身のこなしも軽くひらりと猫又に跨った輝夜は、大きく深呼吸をした後柚葉の腰に腕を回した。


「落ちないように気を付けて下さいね」


「はい!」


輝夜の心、柚葉に伝わらず。