宵の朔に-主さまの気まぐれ-

それから二週間経ち、季節は初秋に入って暑さは遠のき、朔の居ない夜にも慣れてきた。

寂しがる凶姫のために始終誰かが傍に居て話し相手になっていたこともあってか、つわりもほぼ治まって最近急に大きくなり始めた重たい腹に苦労していた。


「ああ重たい。柚葉、腰を摩ってくれない?」


「はい。男の子かなー、女の子かなー、楽しみですね」


自分よりも柚葉の方が楽しみにしてくれているんじゃないかと思うほど嬉しそうに腹や腰を撫でてくれる柚葉は、輝夜との仲に進展がありそうになかった。

本人たちがそれでいいならそっとしておこうと朔と話をして口を挟まず見守っているが――その間にも柚葉はひっそり私物を店に運び込んだりしていて、輝夜がぴりぴりしているのは手に取るように分かった。


「ねえ柚葉、毎日店とここを行き来して大変でしょう?息抜きにちょっと出かけてきたらどう?」


「出かけるって…どこにですか?」


「少し前に朔と一緒に山奥の泉に行ったんだけれど、とても水がきれいで小川も流れていたわよ。染色に持ってこいと思わない?」


きれいな水で染色をすると鮮やかな色が出るため、少し考え込んだ柚葉はその誘惑に負けてこくんと頷いた。


「じゃあ明日主さまに連れて行ってもらって来…」


「朔は私の傍に居てくれないと駄目。輝夜さんに連れて行ってもらいなさいよ」


「え…どうして鬼灯様なんですか?」


「あなたたち一応お付き合いしているんでしょう?逢引きくらい当然じゃない。普通するじゃない。絶対するのよ普通は」


何度も念押しをされて、若干自分たちの関係を不安に感じた。

両想いになって付き合うというところまできたものの、実際の関係は付き合う前より距離を感じて寂しく思う時がある。

真面目な男だから、自分を大切にしてくれようとしているのも分かるが…限度があるというものだ。


「明日鬼灯様に聞いてみますね」


「ええ、そうしなさいな」


そわそわ。

途端にそわそわし始めた柚葉にきゅんとした凶姫は、腰を摩ってもらいながらふたりの幸せを思ってまどろんだ。