宵の朔に-主さまの気まぐれ-

先日朔が下見に訪れていたこともあり、柚葉が出店しようとしている店が百鬼夜行の主の縁者であるという噂はすでに広まっていた。

雪男ひとりが町内を歩くだけでも目立つのに、そこに輝夜や柚葉、百鬼たちが一緒ともなると人々が騒がないわけがない。

ただしこの状況を読んでいた雪男は、店が繁華街から一本外れた道にあるため、あちこちに猫又や烏といった獣型の百鬼を配置させて往来を通らせないように交通整備していた。


入り口の戸板を外してささくれ立った畳や腐食した床板を引き剥がし、全ての障子や襖も外して陽光を入れると、いかに店内が想像以上に廃れているかが如実に分かり、たすき掛けをしてやる気満々の柚葉はため息をついた。


「もうちょっと家賃値切れば良かったかな…」


「そこは交渉上手の雪男にやってもらいましょう。さあお嬢さん、これを持って。私は屋根瓦を外して来ますから」


「よろしくお願いします。気を付けて下さいね」


はたきを受け取った柚葉は、埃を吸い込まないように手拭いで口元を覆って頭の後ろで結ぶと、ものすごい勢いで掃除を始めた。

それもこれもこの後は平安町に渡って家具の買い付けに行くからだ。

二階を住居にするため、身の回りの物は自分で作るとしても店先に出すものはそういうわけにはいかない。

店の外には新しい畳や床板、屋根瓦、襖、畳などが所狭しと並んでいて、慌ただしく出入りする百鬼たちを人々が遠巻きに見守っていた。

雪男は力仕事には加わらず指示役だったため、往来に住んでいる人々が軒先に出て見ているのを見かけると、全開の笑顔で営業にかかった。


「うちの者が店を出すんだ。商品は折り紙付きだから、開店したらなんか買ってやってくれよ」


側近の雪男にそう言われては断れる者など居るはずもなく、柚葉の店はまだ開店していないのに、いつ開店するのかと人々が噂を始めて雪男、にんまり。


「こりゃ繁盛間違いなしだな。おっ、朧か。手伝いに来たのか?」


風呂敷を手に様子を見に来た朧は、立ったまま風呂敷を広げて握り飯や漬物を見せて顔を輝かせていた。


「昼餉を届けに来ました。わあ、ここが柚葉さんのお店?私も手伝うっ」


「おう、あいつらこれから平安町に渡るから、後は俺たちに任せてもらおう」


皆、やる気満々。