宵の朔に-主さまの気まぐれ-

凶姫のつわりは続いていたが以前よりはかなり治まってきていて、朔の袖を引っ張り回しておねだりをしていた。


「ねえ、私も行きたいの。いいでしょう?無理はしないから」


「俺が行けないのになんでお前だけ行こうとしてるんだ?それに掃除なんだぞ、前かがみになることも多いし、安静にしていてくれ」


「いやよ!い、や!ねえ柚葉からも言ってやってちょうだい!」


「あ…ええと…私も主さまと同感です。安定期に入るまではじっとしていて下さい。ある程度きれいになったら姫様にもお手伝いしてもらいますから」


朔と柚葉双方に咎められて破裂しそうなほど頬を膨らませた凶姫だったが、ここにはもうなんでも賛同してくれそうな息吹は居ないし、味方が誰一人として居なくなった気分になって腹を撫でて胎内の子に呼びかけた。


「お母様の味方はあなただけよ」


「俺だって味方だけど、安定期に入るまではという話だ。輝夜、いいから行って来い」


朝餉を食べ終えた輝夜は、見取り図のあちこちに書かれた柚葉の注文に目を通して吹き出した。


「お嬢さん、これは揃えるのに苦労しそうですね」


「そうなんです。揃えるの手伝ってもらえますよね?」


「それはもう。こっちより平安町の方が雅なものが多いですから、今日はある程度掃除をした後あちらへ渡りましょう」


平安町は首都なだけあって精巧なものが多いが、妖が日中往来を歩くのは悪目立ちするためほとんどしたことがない。

人型できれいな顔をしているとまず妖だと疑われるが、人と妖の協定があるため双方手出しはしない。

分かってはいてもじろじろ見られるのは居心地が悪いので表情を曇らせていると、悪目立ちしても全く気にしない輝夜は、玄関で草履を履いて準備万端になると、にっこり笑って見せた。


「出資者の兄さんとは別に私が今日はお嬢さんが欲しいものを買ってあげますから」


「!ほ、本当ですか!?行きます!」


見送りに出て来ていた朔と凶姫は顔を見合わせて吹き出した。

ふたりはもう心配ない――後は何かきっかけがあればいいのだが…


「行ってきます!」


玄関を出た先に待っていた雪男と力自慢の百鬼たち数人を引き連れて、いざ出発。