宵の朔に-主さまの気まぐれ-

柚葉がいつものように話しかけてくれたため、幾分かは気が紛れた輝夜はその夜の百鬼夜行でかなりの功績を上げた。

元々幼い頃から刀の腕前は朔以上かもしれないと雪男に太鼓判を押されていた実力は如何なく発揮されて、おかげで朔は全く出番がなく、風に髪をなぶられながら笑んでいる輝夜の横顔を見てぽんと頭と撫でた。


「気合いが入ってるな」


「ええ、お嬢さんが話しかけてくれたので」


まるで恋を覚えたての少年のように笑った輝夜が可愛らしく、朔は刀を鞘に収めて暗闇の眼下を見下ろした。


「早速明日店の掃除に取り掛かると雪男が言ってたぞ。俺は目立つから行くなと言われてるから、お前は柚葉と行くといい」


「はい。楽しみだなあ」


とりあえずぎくしゃくしていた空気がなくなって本当に安心した輝夜は、明け方幽玄町の屋敷に戻って風呂に入って着替えると、少し張り切りすぎて疲れていたため自室で床を敷くのも面倒で畳に寝転がった。

あっという間に寝息を立ててすやすや眠っていた輝夜をしばらくしてから起こしに来た柚葉は、あまりの安らかな寝顔に頬を赤らめて傍に座った。


「可愛い…」


伏せたまつ毛は長く、少し開いた唇は幼く、もう顔を隠すこともなくなった輝夜の人気が急上昇しているのを知っている柚葉は、少しずつ沸き上がって来る独占欲に身を焦がしていた。


「私に触らないのは、私に飽きたからじゃありませんよね…?」


熟睡している輝夜からはもちろん返事はなく、押入れを空けて布団を取り出して身体にかけてやると、夜通し反物に刺繍を施して目がしぱしぱしていた柚葉もまた大あくびをして少しだけ横になると、こちらもあっという間にすやすや。


人の気配に気付いた輝夜は、隣で寝ている柚葉の寝顔を見てそわそわと手を動かして触れたい願望に捉われていた。

母と約束した手前上、いけないと分かっていたが――


「これは…我慢できそうにない」


肘をついて身体を起こすと、可憐な唇にそっと唇を重ねた。

禁じられた行為に及んでさらに求めてしまいそうになって、首をぶんぶん振ると先に自室を出て廊下を歩きながらぽつり。


「日に日に欲しくなってくるなんて…これが私に欠けていたものの正体か」


柚葉に悪戯したことはさすがに朔には言えず、ひとつ秘密を作った。