宵の朔に-主さまの気まぐれ-

しばらくして目が覚めた柚葉は、寝ぼけ眼のままぼうっとしていたが、近くで本を捲る音がしてそちらに顔を向けた。


「鬼灯様…」


「よく寝ていましたね。そのままでいいですよ」


やわらかく笑んで読書をしている輝夜を見ながら、考えた。

…自分は本当にこの人と両想いになったのだろうか?

確かに自分から清い付き合いをとは言ったものの、清い付き合いどころか手も触れてこないという友人にすら値しない関係になったような気がする。

また輝夜がそれを気にもしていないようで、やっぱりむかむかが収まらない柚葉は起き上がって髪を手で撫でつけて立ち上がった。


「そろそろ姫様たちが起きてくる頃だと思うので、お会いしに行ってきますね」


「…まだここに居ればいいじゃないですか。ふたりで居るのは何か問題でも?」


「問題なんて何も起きませんから、ふたりで居なくても問題ないんじゃないですか?」


どういう意味だろうと輝夜が考えているうちに自室を出て居間に向かった柚葉は、そこに朔と凶姫が揃って居るのを見て頭を下げた。


「おはようございます、主さまに姫様」


「おはよう柚葉。待っていたのよ」


――朔が昨晩の百鬼夜行で輝夜と交わした会話の内容を聞かせてもらった柚葉は、そこで全ての辻褄が合って自嘲気味に吐き捨てた。


「そういうことだったんですね、分かりました。じゃあ鬼灯様が納得いくまでそうすればいいと思います」


「え…柚葉、どういう意味?」


「私が鬼灯様と夫婦になるかどうかなんてまだ分からないし、そうならない可能性も大いにありますよね。だからいいんじゃないでしょうか。私に何も魅力を感じないのであれば触れてこないし、私も鬼灯様の意思を尊重して私からは触れません。それでいいですよね」


朔と凶姫が顔を見合わせていると、柚葉はどこかすっきりした表情ですくっと立ち上がり、ふたりが柚葉を見上げた。


「お洗濯してきます。洗い物があったら出して下さいね」


「ちょ…ちょっと待って柚葉」


止める凶姫の声は聞こえていたはずなのに、颯爽と井戸の方に消えてしまった柚葉に茫然。


「輝夜…あれはまずいぞ」


あの怒り方を知っている朔は、額を押さえて思わず唸った。