宵の朔に-主さまの気まぐれ-

柚葉のぷんすかは頂点を極めていた。

両思いだと分かったものの輝夜は自分が触れることを嫌がっているし、じゃあお付き合いとは一体なんなんだと考えてむしゃくしゃしながら井戸の前で反物の染色をしていた。

朧と凶姫に教えられた色事のいろははどうやらなんの役にも立ちそうにない。

何かいけないことをしたのかと考えたがそれらしきことをしたつもりは全くなく、もう考えるのをやめた柚葉は染色に没頭して無心になっていた。


「それ楽しーい?」


「え?ああ、白雷さん。楽しいですよ、でも水を吸った反物って意外に重たくて…」


茂みから現れたのは晴明と山姫の間に生まれた白雷という白狐の若者で、真っ白な耳や尻尾がとても可愛らしく、いかにも悪戯好きそうな快活な美貌の持ち主だった。

笑うと八重歯が見えてそれも可愛いなと思いながらまた反物を擦っていると、白雷は頓着なく隣で中腰になって盥を押さえてくれた。


「手伝うよー」


「え?ありがとうございます。白雷さん茂みでなにしてたんですか?尻尾や耳に葉っぱが…」


「天気がいいから昼寝してたー。なあ柚葉ちゃん、手伝うから後で撫でてー」


「撫でる?ええいいですよ、私もそのもふもふ触ってみたいと思ってたんです」


いかにもふかふかでふわふわな真っ白な耳や尻尾に触ってみたいと言う願望があった柚葉は、反物を絞ってそれを物干しざおに干してもらうと、隣を歩く背の高い白雷を見上げた。

白雷は百鬼夜行に出るでもなく、雪男と朧の間に生まれた長男の氷輪と屋敷の留守番をしている。

ふたりとも目見麗しい男なため密かに遠くから見ているだけで幸せだったのだが、こうしてちゃんと話しかけられたのははじめてだ。


「柚ちゃんさー」


「ゆ、柚ちゃん!?」


「あー、この呼び方…いや?」


「いや…じゃないですけど…ちょっとびっくりしただけです。大丈夫ですよその呼び方で」


にかっと笑って憎めない愛らしさのある白雷に和んでいると、縁側に座った柚葉は尻尾に沢山ついている葉っぱを取ってやった。


「白雷さん、尻尾の毛がちょっと長いから梳いた方がいいですよ」


「じゃあやってー」


「いいですよ、きれいにしてあげますね」


にこにこにこにこ。

柚葉と白雷がにこにこし合っているのを見かけた輝夜は、意外な組み合わせにふと足を止めた。


「白雷…?」


白雷のふわふわの尻尾に触れている柚葉が幸せそうな表情をしていて、胸がちりりと灼けるような痛みを覚えて、胸元を握りしめた。