宵の朔に-主さまの気まぐれ-

凶姫が朔の腕の中で眠りに落ちた頃、柚葉は帰り支度を終えた息吹と一緒に茶を飲んでいた。

何せこのふたり――何もかもが似ているため、ふわふわした会話しかできない。

あそこに咲いている花がきれいだよとか、団子屋の新商品がとても美味しいとか――

そんなふわふわ会話を縁側で猫又の毛づくろいを手伝ってやっていた輝夜は微笑ましく思って目を細めていた。


「主さま…じゃなかった。十六夜さん、まだまだ俺はやれるって自信満々だったけど、私毎日身体を解してあげてたんだから。もうおじいちゃんなんだってこと認めないと」


「先代様はまだまだお元気でいらっしゃっていいじゃないですか。先々代様もお若いですし…皆さんお歳を取られてないんじゃ…」


「力が衰えると急に老けるらしくて、白髪な十六夜さんも素敵だと思うの」


息吹にかかれば結局なんでも素敵らしく、柚葉はごろごろ喉を鳴らしている猫又を撫で回している輝夜にちらりと目をやった。


…この人は一体何歳なのだろうか?


「ええと…現当主は息吹さんがいくつの時にお産みに…」


「うんと前だよ」


「ええと…うんと前っていうのは…」


「なんですかお嬢さん。私が幾つなのか知りたいんですね?」


――輝夜にはもう先見の明がないはずなのに言い当てられてどきっとした柚葉は、目を泳がせながら立ち上がって輝夜の隣で中腰になって猫又の耳を撫でてやった。


「で、お幾つなんですか?」


「うんと前ですよ」


「ですから!お幾つなんですか!?」


「それを知ってしまって年寄り扱いされるのはちょっと嫌なので言いません」


にこっと笑ってそう言われた柚葉は、つまり輝夜や朔はかなり年上なのだと察して首を竦めて茶化してみせた。


「じゃあ百鬼夜行が終わったら私も息吹さんみたいに身体を解してあげましょうか?」


冗談ですよ、と続けたかったのに――輝夜は一瞬きょとんとした後少し頬を赤らめて口ごもった。


「そ…そうですか?じゃあお願いしようかな」


「…えっ?」


息吹はぷっと吹き出して机に頬杖をつきながらふたりの会話を微笑ましく聞いていた。

祝言を挙げるまで手を出さないという約束はさせたが、全く触れてはいけないとは言っていない。


なので、‟輝ちゃん柚葉ちゃん頑張れ!”と内心ふたりを焚きつけながら応援していた。